HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「先生のクラス問題児ばっかり」とクラス担当が決まってから和田先生がこぼしていた。
4月に入って、まこと和田先生と三人で飲みに行ったときの話だ。
年齢が近いせいか、何かと気が合うし……かつては合コンも行った仲だ。
何かとつるんでいたわけだけど。
「そうでもないですよ?森本とか……彼女、成績優秀でクラス委員も率先して引き受けてくれて、助かってます」
僕の返答に和田先生は苦い顔をしてビールを飲んだ。
「森本ねぇ。まぁ森本自身はそんなに問題児じゃないですよ。ただ……森本の母親がね」
「お母さんがどうしたんですか?」
「教育ママで有名なんですよ。父親が大病院を経営してるから、娘にもその道を継がせたいんでしょ」
和田先生は眉を下げてちょっと皮肉そうに笑う。
教育ママ……
そう言えば以前そんなことを言っていたような…
「名のある大病院は跡継ぐのも大変だな。良かった~俺、しがない町医者の跡取りで」
まこはわざとおどけて言ったが、まこのとこはお母さんが居ない変わりにお祖母さんがとにかく口煩いらしい。
それでもストレートに国家試験に合格したわけだから、凄いと思うケド。
「あの母親、娘にも厳しいけど、僕たち教師にも厳しいんだよなぁ。今流行りのモンスターペアレント?
成績が少しでも落ちると、とにかく担当教師を責める、責める!あの母親のせいで、宮内先生なんて胃を壊して入院したんですよ」
宮内先生ってのは去年一年を担任に持っていた歴史の先生だ。
50過ぎのベテラン教師だけど、気弱そうな感じはする。
「うげぇ。そんな生徒を預かるのも一苦労だな」とまこが顔を歪めた。
だけどすぐに表情を引き締めると、
「なるほど、お前押し付けられたってわけね」と納得して、目を細めていた。