HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米が壁に手をついて、あたしの顔を覗き込むと、あたしの耳元にそっと口を寄せた。
「『これ以上邪魔したら、次はただじゃ置かないよ』って、警告したんだ」
すぐ近く……本当に至近距離に近づいた久米の体から、ほんの僅かに乃亜が愛用しているプワゾンが香ってきた。
くすぐるような低い声が耳朶を打ち、思わず久米から顔を背ける。
それを楽しむかのように久米は低く笑い、
楽しそうに笑う声は僅かに弾んでいたけど―――
でも、ちっとも楽しそうには思えなかった。
何か―――違和感……
そう、それはほんの小さな違和感。
それでもあたしはその違和感を振り切るようにぎゅっと手に力を入れると、ケータイを握った手をすっと持ち上げた。
「乃亜に何かしたら、許さないよ」
「許さないって?」
久米が再び楽しそうに笑って、あたしの顎に手を掛ける。
「触るな」
あたしは低く言うと、顔を逸らして久米の目の前にケータイを掲げた。
久米が不思議そうに首を傾け、その瞬間
バキィッ…
あたしの手の中でケータイが鈍い金属音を立てて、壊れた。