HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしの言葉に、久米はちょっとの間眉間に皺を寄せていたが、それでもすぐにその表情を和らげた。
さっきまでの底意地の悪い笑みじゃない。
本当に、困ったような―――それでいて心配しているような……複雑な笑みだった。
「やれやれ、手ごわいお姫さまだ」
歯の浮くようなキザな台詞に鳥肌が立ちそうだったけど、あたしの肌には実際鳥肌が浮かなかった。
何ていうか…こいつのこうゆう台詞って妙にさまになってるって言うか……
急に柔らかくなった久米に、あたしは意気消沈。
何なの、こいつ……
久米は柔らかい笑顔のまま、そっとあたしの手を握ってきた。
「俺はそう言う強い人が好きだけど。
たまには守られてみるのも悪くないんじゃない?」
肩肘張ってると疲れちゃうよ?
そう続けて、久米はあたしの握られている手をそっと開いた。
壊れたケータイを退けると、あたしの手のひらにはケータイを壊したときにできた僅かな傷跡があった。
「怪我、してる」
そう言って久米は制服のポケットから、しっかりとアイロンが行き届いたハンカチを取り出してあたしの手のひらをそっと押さえた。