HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米もそんな雅に惹かれたのだろうか―――
だけど、彼女は渡さない。
久米が本当に雅を好きで、彼女を自分のものにしたいがため、こんな回りくどくて訳の分からないことをしても、
僕は自分のやり方で、彼女を愛する。
彼女を守る―――
―――とは言ったものの…雅が何を考えているのかもうちょっと分かればなぁ。
いやいや。今は雅を信じるんだ。
雅が久米との間に諍いを抱えているのは間違いないが、彼女の気持ちまで疑ってはだめだ。
ただ信じること。
それがいかに難しくて大変なことか、僕はそれまで知らなかった。
信じていれば、もう少し久米にも優しく接することができるはずなのに。
優しくなりたいと思う一方で、大好きな人を守れるよう強くなりたいと思う。
だけど現実は………
―――――
――
学校から帰ってシャワーを浴びると、僕は腰にバスタオルを巻いたまま体重計に足を乗せた。
デジタルの数字が表示され、その数字は52、と3の間をいったりきたりしている。
「…………」
間違いだよな。
もう一回計りなおしてみよう。
なんて、未練たらしく体重計から降りて、もう一度そろりと乗ってみる。
恐る恐る、メーターを見下ろすと、
“54.2”と言う数字で何とか止まった。
ふぅ。さっきのは何かの間違いだったんだな。
なんて安心してると、
ワンっ
僕の足元でゆずが笑うように小さく鳴いた。
は……?嫌な予感がして足元を見やると、かかとの方でゆずが二本の前脚を体重計に乗っけて、シッポを振っていた。
ゆず~~
思わず、ゆずをちょっと睨んで彼女を体重計から下ろすと、気を取り直してもう一度計りなおしてみた。
数字は
“52.6”で、今度はしっかり止まった。