HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
押し付けられた―――のかどうかは分からないけど、それでも今のところ僕はその問題の母親に別段攻め立てられたことはない。
保護者会でも、大人しかった。
確かにいかにもキツそうな雰囲気はあるけど、いつも意思の強そうな唇を引き締めて、その口から思いも寄らない言葉が飛び出したことはない。
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「森本は国公立の医学部を希望だったよね。このままの成績で行けば大丈夫だと思うよ」
問題を教え終わった僕は、教科書を閉じている森本に目を向けた。
「あ……はい…!」と森本は僕の話を聞いていなかったのか、慌てて首を振った。
「まこ…保健室の林先生がその大学の医大生だから、色々聞くといいよ」
「せ、先生もそこの大学の卒業生ですよね」と森本が遠慮がちに聞いてきた。
「…そうだけど、僕は教育学部だったし、あんまり僕の意見は参考にならないと思うよ」
僕は苦笑い。
OBとは言え学部が違えば、勉強する内容も全然違うし学力のレベルも違う。
「色々、教えてください!」森本が教科書を胸に抱きしめて勢い込んだ。
そのときだった。
覚えのある香りが心地よくふわりと香ってきて、僕は顔を上げた。
「先生」
雅は相変わらず何を考えているのか分からない無表情を浮かべて、僕の机の近くに立っていた。
吸い込まれそうなほど透き通った黒曜石のような瞳がまっすぐに僕を捉えている。
目力があるっていうのかな?
彼女にまっすぐに見据えられると、僕はその強い視線から目を逸らせなくなる。
それはまるで催眠術にかかったような、その瞳に釘付けになる―――
隣には楠が居る。楠はちょっと吐息をついて腕を組んだ。
はっとなって慌ててまばたきをすると、雅は機嫌悪そうに眉根を寄せていた。
「どうした、鬼頭?」
つるりと表情のない顔から感情が読み取れなかったが―――
実行委員になったこと―――やっぱ怒ってるのかな……?