HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「それがものを頼む態度?どうしたんだよ、急に。千夏さんと喧嘩でもした?」
「喧嘩はしてない。だけど今あいつも実家に帰してる」
まこは眉間に皺を寄せると、遠くの方を睨んだ。
その横顔に少しだけ翳りが見えた。
「どうしたの?なんかトラブル?」
心配になって真剣に彼を覗き込むと、まこが顔を上げた。
「トラブルっちゃトラブルだな。俺のマンションの上の階に若けぇヤツが引っ越して来てさ。ありゃたぶん大学生だな。
うるっせぇの、何の!夜中まで仲間呼んで騒ぎ立てるし、大音量で音楽掛けるし」
結局、その騒動は朝方まで続いたそうだ。
「千夏も俺も睡眠不足だ。我慢が出来ずに怒鳴り込みに行くと、あいつら居留守使いやがった。
子供の胎教には環境が悪すぎる。ちょっと様子見で一旦帰したわけだが。
とりあえず二日続けては睡眠不足は適わんからな、お前んちで眠って体力温存だ。
明日また怒鳴りに行ってやる」
まこはギリギリを歯軋りをしながら、宙を睨んでいた。
「それは…まぁ…大変だね」
マンションの騒音問題ってのは結構身近なものだ。
僕だって経験がある。もちろん加害者ではなく、被害者の方だけど。
二年ほど前、やっぱりまこと同じようなケースで僕の隣の部屋に男子大学生が越してきた。
大学生になったばかりではじめての独り暮らしなのだろう。
お酒も飲めるし、それを咎める大人もいない。急に大人になった気がして羽目を外してしまうのだろう。
こっちは夜起きて朝寝ていられる学生と違って、規則正しい生活を送ってる身だ。
さすがに一週間も続くと我慢ができなくて、注意をしにいったら、あっさりと彼らは謝ってくれた。