HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「話は戻すけどさ、まこの上の階に住んでる人、どうゆう人なの?」
僕がまこの胸ぐらから手を離すと、彼は襟元を正しながら
「知らん」
と、はっきりと言う。
「知らんて……怖い人だったらどうするんだよー…」
「怖い人ってヤクザとかだったら?ってことか?その心配はねぇだろ。あのマンション入居時の審査が厳しいから。
その筋のヤツは入れねぇよ」
「そうかもしれないけど、今時の人って何するか分からないじゃん。いきなりグサッて刺されないでよ?」
僕が心配そうにまこをちょっと見ると、彼はわずかに肩をすくめた。
「ボディーガードに鬼頭を貸してくれ。あいつは何か色んな意味で強そうだ?」
「お断り。雅を危険にさらすことなんてできない」
なんて返すと、まこはまたも肩をすくめた。
「相変わらずの溺愛っぷりだな」
「まこだってそうでしょ?だから千夏さんを帰したんでしょうが」
呆れて言うと、
「ま、そうだな」とあっさり認める。
さっきまでまこの足元で大人しく遊んでいたゆずが会話を見計らってか、まこの座っているソファにぴょんと飛び乗り、口にくわえたクマのぬいぐるみをまこの膝の上に置いた。
そのクマを、まるで自慢するかのような目でまこを見上げ、
「お、ゆず~。早速、鬼頭からもらったおもちゃで遊んでるのか??良かったな~」
まこがゆずの頭を撫で撫で。
だけどゆずはまこの手を離れて、ソファに掛かっている僕の上着を口で引っ張った。
「だめだよ、ゆず。それは僕の上着。ゆずはおもちゃがあるでしょ」
ゆずから上着を取り上げた拍子に、
カラン…
何かが床に落ちた。