HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


それは小さな―――何の変哲もない黒いUSBメモリだった。


「あれ……?何だろ、これ。僕のじゃない」


USBメモリを拾い上げて目をまばたくと、ソファの上からまこも覗き込んできた。


「俺のでもないぜ?鬼頭のじゃねぇの?」


「……でもさっきまでなかった…」


「ってことはお前の上着から出てきたんじゃねぇか。誰かのが紛れたか?


なぁちょっと覗いてみねぇ?」


なんて、まこが楽しそうに言って僕はちょっと彼を睨んだ。


「ダメだよ。誰かのものを勝手に覗くなんて。持ち主に返そう」


「つったって、これじゃ持ち主が誰だかも分かんねぇじゃねぇかよ」


………確かに。


結局、散々悩んだのち、僕はそのUSBメモリをパソコンに繋げることにした。


ほんのちょっと興味があったって言うのもある。


それでも他人の秘密を盗み見ているみたいで、開くときはドキドキと心臓が嫌な音を立てていた。


だけど開いてみて―――



僕は違った意味で驚き、目を開いた。



USBメモリはワード形式で、一番上の表題に





“神代先生へ




楠 乃亜より”






と書かれていたからだ。






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