HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



「その…アポロ何とか…月面着陸計画だか何だか知らないが、それは分かった。


だけど、一体久米が何を隠してるって言うんだよ。


たかが男子高生だぜ?大それたことなんてできねぇよ。


NASAでも行く気か?」


と、まこはわざとチャラけて言ったけど、目は真剣な光を帯びていた。


「アポロニウスだよ。ちなみに月面着陸したアポロ計画とは無関係」


「あっそ。どっちでもいいや。んで、どうすんの?どっちにしろ、あいつ狙われてるんだろ?」


「少なくとも久米に雅を傷つける気持ちはないだろう」


僕は顎に手をやって立ち上がった。


この定理に気付かせてくれたのは久米だ。


あのとき久米はわざと僕を挑発するかのような態度で僕を雅の机に呼び寄せ、この定理を見せた。


でも何故―――……


僕が歩くと、ゆずもふらふらとついてくる。


口には雅からもらったアフロテディをくわえていた。


ゆずが動く度にふわりと、ヒプノティックプワゾンの香りが心地よく香ってくる。


まこの言う通り―――久米は男子高生だ。




だけど恐ろしく頭の回転が速い―――




僕と雅が付き合っていることを、彼は早い段階で見破った。


そしてあの晩―――それを確かめるために…あるいは挑発するかのように、予告するかのように僕のマンションに来た。


彼は予想していたのだろう。


僕が、彼のことを知ろうと動き出すことを―――





僕の中でもう一つの直感が生まれた。


だけど、僕は自分自身その直感を疑った。





久米は―――ともに闘う仲間を探しているんじゃないか―――





そうすればアポロニウスの定理の走り書きにも、頷ける。




よおく思い出すんだ。



今までの久米の言動を。



言葉の裏に、何かを指し示す意味があるはずだ。




< 310 / 841 >

この作品をシェア

pagetop