HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「生徒を信じたい気持ちは分かりますがね、それでも普段の素行が」
石原は腕を組んであたしたちと机を挟んだ向こう側から睨んできた。
「そのUSBってのは?」
水月が緊張したように石原に問いかけ、
「これですよ」
と石原はさっきあたしたちから取り上げたUSBを掲げた。
「見せてください」
「いいですけど、神代先生の手で接続してみてください。どんな悪事が公になるやら」
石原は楽しそうに言って水月にUSBを見せる。
水月は黒い何の変哲もないUSBを見て、そしてあたしたちを眺める。
「どうしたんですか?神代先生まで止まってしまって。やっぱり先生から見ても彼らは試験問題を盗むように見えますか?」
石原が挑発するように笑って、パソコンを手で促す。
ここで水月が断ったら、今度は彼がグルになっていると勘違いされる。
水月はUSBとあたしたちをひたすらに見比べ、誰もが息を呑む奇妙な沈黙が降りてきた。
「先生、繋げてください」
その沈黙を破ったのはあたし。
「だけど!」
さっきまで項垂れたままの乃亜が声を荒げて、
「しょうがないよ。神代先生まで疑われてるし」とあたしは感情のない声で返事をかえした。
この件に関しては、水月は全くの無関係。
乃亜と梶もだ。
だからもし情報が石原に見られても、あたしが二人を巻き込んだことを説明するつもり。
石原はその申し出を受け入れるだろう。何と言ったって標的はこの“あたし”だから。
あたしさえ、学校から引きずり落とすことができればこいつは満足するはず。
そう覚悟を決めていたときだった。
水月は僅かに吐息をつくと、
「本当にやましいことはないんだね?」とわざと大げさに言ってあたしたちを見渡した。
水月は―――このUSBに、もちろん試験問題が入っていないことを知ってる。
あたしの言葉に、水月は諦めたようにUSBのキャップを開けた。