HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
僕は俯いたまま前髪を乱暴に掻き揚げた。
手をそのままにして、顔を伏せたまま搾り出すように言葉を出す。
僕は今どんな顔をしているだろう。
きっと怒りや憎しみで、酷く歪んでいるに違いない。
そんな顔を見せたくなくて、まこの視線から逃れるように手をやったまま、
「久米が―――……雅を傷つけようとしている……」
くぐもった声で、僕はさっき階段であったことをとつとつ喋り出した。
一通り喋り終えると、
僕の前を行ったりきたりしていたまこは、唐突に脚を止めた。
「話は分かったよ。お前が鬼頭を心配する気持ちも痛いほど分かる。
鬼頭がもし千夏だったら、俺だって同じことをしてたに違いない。
だけどな、冷静に見て第三者的に言わせてもらうと、
それは明らかな久米の挑発だ。
あいつはお前が教師で、その教え子に手を挙げることがないと踏んでいる。
いや、もしかしたらそれ自体もあいつの考えで、もしあいつに何かあったら、お前は教師をクビだ。
それを狙っていた、とも考えられる」
まこの言葉に、僕は目を開いて手を退けると、はじめてまこを見上げた。
まこは思った以上に近くに居て、僕を覗き込むかのように身を屈ませていた。
だけどその顔はさっきの怒鳴っていた口調とは裏腹に、心配そうに眉が寄せられていた。
「もし…例えばの話だが、あいつがストーカーの犯人だったらお前は邪魔者だ。
お前がこの学校から消えれば、あいつの思うツボじゃねぇのか」
思うツボ―――……
そうかもしれない。