HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
その顔は和田先生が言った“教師の前に人間”と言う表情ではなく、それは“教師”としての真剣な顔だった。
「やはりどんなことがあろうと私情で生徒に手を挙げることは良くないです。
幸いにも久米も『自分が悪い』と言って自覚していましたが、
久米のような生徒ばかりではない。
私たちは教師の前に人間ですが、生徒の前では彼らを守る教師だ」
和田先生は―――
現国の先生だ。
日々数字を追って、たった一つしかない答えを割り出す僕とは違って、彼は幾通りの答えを素早く頭の中で考える。
その答えに正解や不正解がないのに、彼は導き、正しいものを見出そうとする。
決して口調が荒いわけでもない。どちらかと言うと喋り方は穏やかで、声だけ聞いていれば咎めているようには聞こえない。
なのにその声は僕の腹の底まで響き、その言葉は脳の隅々まで行き渡る。
「僕が―――
軽率でした。
ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
僕は膝に手を突き、改まって和田先生を真正面から見ると、深々と頭を下げた。