HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ピー……
僕の思考をかき消すかのような機械音が流れて、僕は顔を上げた。
「ああ、わり。ファックスだ」
まこが腰を上げて、パソコンの横に置かれたファックスの機械の吐き出し口から紙を取り出した。
職員室に置いてあるコピー機と共用になっている大きなものではなく、家庭用の小さなファックスだ。
「森本の血液検査の結果だ。郵送するより早いだろ?」
そう言ってまこが紙を眺める。
「ふーん、やっぱり。赤血球数と血色素量、ヘマトクリットは特におかしな点はない。
貧血ではないようだ」
「でも、森本はここ最近調子が悪そうにしていたし……」
僕は医者じゃないから、血液検査の結果についても何も言えないが、だったら何が影響しているのだろう。
「ただ、血中のアドレナリン濃度が標準より高い」
「アドレナリン……って興奮したりすると出るものですよね?」
と和田先生が首をかしげる。
僕もその程度しか知らない。それが人体にどう影響してくるのかさっぱりだ。
森本が具合悪そうにしていたのとどう関係あるのか……
「アドレナリンは副腎髄質ホルモンとしての作用を持つ神経伝達物質だ。
血圧の拡張期は心臓の血液が多く集まり、収縮期には大動脈から全身に一挙に放出する。
つまり最高血圧と最低血圧の差が短い間で極端に変化すると、て、まぁそれがアドレナリンの影響なんだが、眩暈や吐き気なんかが起きやすくなる。
それで貧血に似た症状になるんだ」
まこの説明は分かりやすかった。
「つまりあいつはちょっとのことで興奮しやすい体ってこと。
それが悪影響を及ぼして、心筋を弱めているってことだ」