HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
机の上に乗せられた教科書の端に、アポロニウスの定理が書かれていて、その図をトントンとペンの先で指し示している。
『2定点A,Bを一定に動かすと、点Pは円を描く。
まったく無関係だと思っていた事柄が、一つの事実に結びつく。
そうだよね。
先生』
耳元で囁かれたように、久米の声が僕の脳内を走った。
いや、実際久米が僕に直接こう言ったわけじゃない。
でも―――そう言われている気がした。
二年前は
雅をストーカーしていた犯人が傷害事件を起こした年だ。
顔を上げて、目の前の安藤母娘を見ると彼女たちは戸惑ったように眉を寄せた。
二年前のことを知らない人間に、深く概要を教える気はないらしい。
カマを掛けるしかない。
そう決心して、
「ストーカー犯人による傷害事件のこと。……ですよね。
あの事件で標的にされたのは、当時中学生だった少女。そして、久…冬夜くんも
その事件に巻き込まれた。そうですよね」
僕がきっぱりと言い切ると、
「おいっ」
少しばかり性急過ぎた僕の発言に、今度はまこの方が焦ったように僕を軽く肘で小突いて、
でも安藤母娘は―――
安心したのか、それとも諦めなのか、深くため息をついた。
「少なからず事情を知っておられるみたいですね]
一つ頷いて、僕たちははっきりと分かる吐息をついた。