HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしは久米のことをよく知らない。
転校してくる前どこに居たのか、そして何で転校してきたのか。
あたしと久米に共通点なんてない。
だから恨みを買う覚えなんてないんだけど。
それでも、気になる。
「ねぇ久米って何で転校してきたんだろ」
あたしは帰り道、それとなく乃亜に聞いてみた。
「久米くん?さぁ、何か家庭の都合とかなんとか。あ、そだ。親が離婚したって言ってたっけ」
「前はどこに居たの?」
「県外の高校らしいよ。でもここからあんまり離れてないかも。特急電車だったら一時間ぐらい」
と言って、乃亜はにんまり。
「何で急に久米くんのこと聞いたの?まさかちょっと気になってるとか?」
「ありえないって」あたしは本気で顔を歪めた。
でも親の離婚か……それは図ろうと思ってもそうはいかないよね。でもここから県外の学校に通えない分けではないない。
事実この学校も県外から通っている生徒は居る。
単に長い登校距離が嫌だったから?
ってことはやっぱあいつが転校してきたのはただの偶然?
そんなことを考えていると、何も知らない乃亜は手を顔の前で組んで
「でもさぁ久米くんて、女の子の好きな要素をぎゅっと凝縮した感じの男の子だよね♪」とふわふわ笑ってる。久米の転校の理由にはそれほど興味がないみたいだ。
「何ていうの?爽やかで優しいし、何気に気が利くし。ルックスもいいし、背も高いし!」
「何、乃亜ああゆうのがタイプだっけ?」
言われっぱなしだったからあたしはちょっと意地悪く笑ってやった。
「かっこいいって言ってるだけ。あたしのタイプはちょっと悪っぽくて、大人の男」
「保健医とか?」
そう突っ込むと、乃亜は本気で頬を膨らませてちょっと怒った。
「もぉ雅ったら!」
あたしは「冗談だよ」と返し、それでも久米に対してはどこかひっかかりみたいなものを感じて、気持ち悪かった。