HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
男は少し丈の長いグレーのパーカーを羽織り、細身のジーンズにスニーカーと言う地味な格好だった。
地味な格好だけど少しも野暮ったいと言う印象はない。
久米のような華々しいオーラがあるわけでもないし大柄な体形をしているわけでもないけど、どこか存在感がある男だった。
男は久米に喋りかけ、乃亜は慌てて僅かに頭を下げている。
三人は、偶然会ったからちょっとお茶でも、と言う気軽な雰囲気ではなかった。
三人が三人とも、どこか緊張を帯びた空気を纏い、辺りに視線を這わせている。
A(エース)
「きた。
右門 篤史だ―――」
あたしが言うと、
「あれが?」
と梶が疑わしそうに聞いてくる。
「間違いないよ。右門だ」
あたしはケータイを手にした。
「どうする気だ?」明良兄が聞いてきて、それに答えようとしたときだった。
あたりにキョロキョロと視線を這わせていた右門 篤史が、目を開いてこちらを見てきた。
!
あたしがここに居ることに気付かれた?
カランカラン
ドアベルが鳴って、
「いらっしゃいませ~」と店員の明るい声を遠くで聞いた。
向かいの店では誰一人として動きがない。