HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
だけど向かいの店で、三人が慌てたように顔を見合わせ、こちらに向かってくる。
何が何だかわからずに、あたしは三人の動向をじっと目で追っている最中だった。
「雅」
一段と声を低めた明良兄に腕を引かれて、あたしがはっとなると、
若い男―――
知らない男だ。たぶん大学生ぐらいの姿が目に入った。
黒いパーカーのフードを被って顔が良く見えないけれど、その男がセルフ式のカウンターで注文をすることなく素通りすると、誰かを探すようにきょろきょろと頭を動かせていた。
少し休憩、友達と待ち合わせ―――カフェにくる理由はさまざまだけど、その男はそれらの理由が当てはまらないように思えた。
明らかに誰かを探しているようだ。
「―――!」
明良兄があたしの腕を掴み、まるで守るかのように肩を抱き寄せる。
「梶!前のカフェの三人は?」
小声で聞くと、
「乃亜ちゃんと、み、右門??はカフェの前で待ってる。久米だけがこっちに来た」
梶も緊張を帯びた様子で腰を動かせる。
男があたしたちのテーブルに近づいてきた。
一歩、一歩がまるで地を這う蛇のように慎重で獰猛な気配を漂わせている。
ドキン、ドキン。
あたしの心臓が早鐘を打った。今すぐにでも立ち上がって、男に掴みかかりたかったけれど、あたしの身体はまるで固まったように動かない。
男はきょろきょろしながらも、やがてあたしの方を見ると、
フードで隠れたその表情に、歓喜の色が浮かべた―――ように思えた。
あたしの体が石のように硬直して、ごくりと息を呑むと
男の口元がにやりと奇妙に歪み、その笑みにぞくりと嫌な何かがあたしの背中を伝う。
「会いたかったよ、雅」
そう言われた気がした。
ジョーカー…
間違いない!こいつ、ストーカーの犯人だ!!
ガタン
梶が大きな音を立てて椅子から立ち上がると、ようやく梶と明良兄の存在に気付いたのか、
少し驚いたように表情を歪ませ、さっと身を翻す。