HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
男が回れ右をして、ようやく呪縛から開放されたようにあたしはびくりと肩を震わせた。
「梶!そいつだよ!」
あたしの言葉に梶が大きく頷く。
「待ちやがれ!」
梶が声を上げたことで、その犯人は駆け出した。客の何人かが何事かあたしたちを注目していた。
その野次馬てきな視線を無視して、梶が駆け出す。
カウンターでは注文を待つ客の長い列ができていた。その客たちを「どけ!」と乱暴に掻き分け、男が外に出ようとする。
あたしも立ち上がった。
「雅!待て!お前はここに居ろ!」
明良兄に腕を引っ張られたが、あたしはそれを乱暴に払った。
「追いかける」
そのときだった。
扉を開けた久米が飛び込むように店内に入ってきたが、男の方が一瞬だけ早かった。
「どけ!!」
またも大声で久米に体当たりをすると、久米は予期していなかった出来事だったのだろうか、ぶつかられて扉に派手にぶつけられた。
身長差だろうか、細身なのに結構な力がある。久米はかなりの衝撃で背中を打ち付けられ、顔をしかめて肩を押さえた。
「久米!大丈夫か!?」
梶が久米に声を掛け、
「梶田!?君が何でここに!」と久米はびっくりしたように目を開く。
「話は後だ!鬼頭を頼むぞ!」
早口に怒鳴って、男が逃げていった方を追いかけて走っていく。
「生憎だけど、頼まれるほどお人よしじゃないの。じゃね」
横目で久米を見て、一言言い置くと、
あたしも梶に続いて店内から飛び出た。まだ状況が掴めていないのか、久米は肩を押さえながら、目を開いて唖然としながらあたしを見送った。