HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「次、右!その次は左折」
右門 篤史の説明は適切だった。
一瞬罠かもしれない、と思ったけれど、久米と乃亜と親しそうだったから“こちら側”と考えてもいいだろう。
右門 篤史の適切なな判断力のお陰か、あたしたちは犯人の後ろ姿を何とか視界に捉えている状態。
あたしは走りながら聞いた。
「乃亜は!?彼女は安全なの!?」
「冬夜がついてる。だけどあの場所は危険だ。二人で離れるように言っておいた」
「久米だって安全と言いきれるのかよ!」
梶が走りながら右門 篤史を睨み、でも彼はちっとも気分を害した様子はなく、
「彼女のお兄さんも居る。大丈夫だ」
と冷静に返してきた。
やっぱこいつ―――あたしの思った通り、頭の回転が速い。
咄嗟の状況判断が冷静とも言えるほど的確だ。
そう思っているうちに犯人がまた狭い角を曲がった。
「待ちやがれ!」
梶が怒鳴り、犯人のすぐ後を追い、
「待って!その先は―――!」
右門 篤史が焦ったように腕を伸ばす。
だけど梶とあたしが一歩踏み出す方が早かった。
閑静な裏の住宅街から一転、そこは車のエンジン音が煩いほどの大通りだった。
犯人は車が途切れた隙を狙って向こう側に走ると、ガードレールを横切った。
「待て!」
梶もその後を追う。
「梶!!待って!」
プ、プーーーー!!!
激しいクラクションの音が鳴り響き、あたしは思わず腕を伸ばした。
梶――――!!!
ブーーーー!!!
耳を劈くようなクラクションの音。
夕刻の時間、ヘッドライトが明るすぎるぐらいあたしたちを照らし出し、大きなワゴン車がすぐ目の前に迫っていた。
――――!!
声を上げる間もなく、思わず手を広げて目を庇うと、その隙間からちらりと見えた
犯人の薄気味悪い笑顔が―――
コレデ君ハ永遠ニ僕ノモノダ
―――………
――
キキィイイイイイイ!!!
激しいブレーキ音とタイヤが軋む音が鼓膜を震わせる。
その音を聞きながら、目の前が真っ暗に染まった―――