HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ストーカーが久米かどうか分からない。
でもそいつはあたしの近くであたしの行動をいつも観察している。
そう―――すぐ近くで……
君ハ裏切リ者ダ
最後の一文に込められていたのは、紛れもなく激しい憎悪と嫉妬だった。
ストーカーには正常な現実が分からないのだろう。
自ら作り上げた想像の世界で生きて、その想像の中で唯一の存在が絶対的なものだと信じてる。
あたしから見たら頭がイカれてるとしか思えないけど。
そいつからしたら、間違っているのはあたしたちの方。
もっと言えばそいつの世界にあたしの大切な者は、存在してはいけないのだ。
間違った存在は―――排除するしかない。
あたしの考えは短絡的と思う人たちは居るだろうケド、あたしはその考えを否定できない。
あの一文を見る限りでは―――
ストーカーはまだ水月の存在に気付いていない。
でも遅かれ早かれ絶対に気付くはず。
あたしは歩く速度を緩めた。
同じ速度で歩いていた乃亜が不思議そうに振り返った。
「どうしたの?疲れた?色々あったもんね」
あたしは腕を組んで、アスファルトに伸びる自分の影を見つめ、
「ううん。何でもない」短く返して再び速度を速めた。
水月の存在は絶対に気付かせちゃいけない―――
ううん。あたしの周りにいる大切な人を誰一人として―――傷つかせたりはしない。
だったらあたしの今できることは一つ。
この手で犯人を見つけ出してやる。