HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米は立ち止まったが、僕の方を見ようとはしない。
「何故そんなことを僕に?」
僕は聞いてみた。
その問いに、久米がゆっくりと振り返る。
その顔にはやっぱりどこか似非臭い笑顔が張り付いていた。
「別に。
他意はありません。ただ、何となく言ってみたくなっただけです」
僕は手の中にある鍵をぎゅっと握った。
冷たい金属の感触が、体温と溶け合って生暖かくなっていた。
その感触が気持ち悪い。
「それじゃ、失礼します」久米は爽やかに言ってちょっと頭を下げると、今度こそ行ってしまった。
何だよ―――
心の中に小さなひっかかりを感じて、それでも僕はその考えに鍵をかけるように教室の施錠をした。
――――
雅―――……
実行委員なんてやらされた上、劇の主役に抜擢されたことに怒ってる…って言うか機嫌が悪いだろうな。
ここは何かお土産を買っていって、ご機嫌とりするしかないな。
と言うのは口実で、僕自身駅前に出来た新しいドーナツ屋のドーナツが食べてみかたっだけで…
好きな甘いものを好きな人と食べるとおいしさは二倍で、
それだけでちょっと得した気分になる。
そう言う訳で、長い列に20分以上並んで、おいしそうなドーナツを買って行き、マンションにたどり着いたのは夜も19時近くだった。