HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


「泣いたらすっきりしたっていうかさ、少し冷静になれたんだ。


さっき、別れの言葉を聞いたときの彼女の様子を思い出した」


「うん……それで?」


結ちゃんがふわふわの横の髪を掻き揚げて耳に掛ける。


結ちゃんの白い耳たぶには黒に近いシルバーの大きめのフープピアスが下っていた。


「それ」


僕が結ちゃんをちらりと見ると、結ちゃんは「?」マークを浮かべて首を捻る。


「彼女の癖だよ。何か考え事してるときに耳に髪を掛けて、そのときに耳の先をちょっと触れるんだ。


軟骨のピアスを確かめてるのかもしれないけど」


「ああ、癖かもね。でも本人気付いてないかも」


「無意識だろうね。だから僕は彼女の言葉を鵜呑みにできない」


結ちゃんはちょっと首を傾けると、


「何だ、あたしが言わなくても、ちゃんと自分で分かってんじゃん」とちょっと笑った。


諦めることは簡単だ。




でも全部―――やりきってからじゃないと、諦めきれない。




「でも、どうするの?あんまりしつこくすると嫌われるよ」


と、結ちゃんがありがたいアドバイスをくれた。


「そうなんだよね。しかも正当法でいけば、彼女は間違いなく益々僕を遠ざけて、心を開かなくなる」


彼女が僕を遠ざけるために演技をしていたと考えたら?


彼女を心配して彼女を手助けしようとしている周りの人間を、危険から守るためにわざと冷たい言葉を吐いたとしたら?


もしそうだったら、闇雲に「やり直そう」と言っても無駄だ。







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