HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
だけどこのまま指を食わえて、ストーカー問題が片付くのを待っていてもだめだ。
「違う方向から攻めよう。まずは久米からだ」
「クメ…?」
結ちゃんが「誰それ」と言った感じで聞いて来る。
「ちょっとした知り合いだよ」
僕は軽く流して前を向いた。
久米は―――
この事件のキーマンだ。
彼が何かを握っている。僕たちが知らない事実を―――掴んでいるに違いない。
思い出せ。
彼はいつだって僕にそれとなくヒントを与えてきた。
アポロニウスの定理だってそうだ。
『鬼頭さんのきれいな血は、作品をさらに美しく斬新な何かをもらしてくれる』
『ファム・ファタルには気をつけて』
………
僕は睨むように前を見つめていた視線をふっと上げ、僅かに結ちゃんを振り返った。
「君はファム・ファタルと言う言葉を知ってる?」
僕が聞くと、結ちゃんは再び「?」マークを浮かべて首を捻る。
「さあ。何の暗号?」
「…僕は分からないんだ。君は知ってるかなって思って」
結ちゃんはちょっと考えるように小首を傾げて、やがてパーカーからケータイを取り出した。
「分からなかったら、調べればいいんだよ。えっと…ファム・ファタルだっけ?英語かな。発音がフランス語みたいだけど。カタカナで出てくるかな」
カチカチとケータイのキーを押して、結ちゃんは画面を覗き込んだ。