HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「おかえりなさいませ。ご主人さま…」
そう出迎えてくれた雅は…どょんと空気が重くて…
ぅわ
機嫌最悪……?
反対に、雅の足元で愛犬のロングコートチワワ“ゆず”がご機嫌に「ワン♪」と鳴いた。
――――
――
でも機嫌が悪かったのは最初の一瞬だけで、その後は普通に雅が用意してくれたご飯を食べ……
「って言うか、今日はごちそうだね♪」僕の好きなものばっかり、そう続けて笑顔を雅に向けると、彼女はちょっと妖艶に微笑んだ。
「ちょっとね。気分転換に」
「ああ……」探るように目を上げて、やっぱり劇の主役になってしまったことを怒ってるのだろうか、
とちょっと考えた。
だけど雅はそのことを口に出さずに、いつも通り食事をしている。
まぁ僕に怒ったってしょうがないことだと分かりきっているのだろうけど。
僕はさっき久米と話したことを雅には言わなかった。
言えなかった―――と言った方が正しいのか。
勝手に久米の気持ちを伝えるわけにもいかないし、悪戯に雅の気持ちをかき乱すのもいけないと思ったから―――
なんて偽善だな。
僕は、本当はあの何もかも揃った若くて美しい久米に
嫉妬しているんだ。
理由がなくても学校で彼女と会話できる彼に。
雅に見合った年齢と、立場に。
堂々と付き合える関係に―――
自分の中にこんな汚い感情があったなんてはじめて気付いた。
それは酷く気持ちが悪いもので、僕はその感情とどう向き合えばいいのか分からなかった。
ビールをぐいと飲んだ。
何もかも飲み込んでしまいたい。
そんな思いだった。
だからかな?
いつもより酔いが早く回った―――