HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「出てきた。ファム・ファタル……えっと…あ、やっぱりフランス語だった」
結ちゃんが納得したように頷いて、発音を聞いただけでもフランス語だと見破った彼女は、かつて医学部を目指していたぐらいだ、やっぱり頭のできが僕とは違うみたいだ。
「femme fatale。意味は、男性の運命を変える女性、男性を破滅させる女性だって。
カルメンとかが有名みたい」
運命を変える女性、破滅させる女性―――……
雅―――……
久米は雅によって未来を破滅させられた、と思っているに違いない。
だから僕にも気をつけろ―――と……?
あれは警告だったのだろうか―――
「対義語でファム・フラジルってのがある。意味は壊れやすい女性、繊細な女性だって。これが何?」
結ちゃんは怪訝そうに眉をあげた。
「ああ…いいんだ。ちょっと気になっただけだから」
カルメン―――かぁ……久米は演劇部だったな。過去の演目であっただろうか。
そんなことを考えていると、あっという間に結ちゃんの家についた。
もっともあのファミレスからそんなに離れてないから、そんなに驚くこともないが。
「先生、送ってくれてありがとう」
「うん、だけど本当に僕が説明しなくて大丈夫?」
「大丈夫だよ。もう慣れっこだから」
結ちゃんがそう言ってドアを開けるときだった。
ガチャっ
小雨の夜空に、森本家の玄関扉が開く音がやけに大きく響き渡った。