HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



「出てきた。ファム・ファタル……えっと…あ、やっぱりフランス語だった」


結ちゃんが納得したように頷いて、発音を聞いただけでもフランス語だと見破った彼女は、かつて医学部を目指していたぐらいだ、やっぱり頭のできが僕とは違うみたいだ。


「femme fatale。意味は、男性の運命を変える女性、男性を破滅させる女性だって。


カルメンとかが有名みたい」




運命を変える女性、破滅させる女性―――……





雅―――……




久米は雅によって未来を破滅させられた、と思っているに違いない。


だから僕にも気をつけろ―――と……?





あれは警告だったのだろうか―――





「対義語でファム・フラジルってのがある。意味は壊れやすい女性、繊細な女性だって。これが何?」


結ちゃんは怪訝そうに眉をあげた。


「ああ…いいんだ。ちょっと気になっただけだから」


カルメン―――かぁ……久米は演劇部だったな。過去の演目であっただろうか。


そんなことを考えていると、あっという間に結ちゃんの家についた。


もっともあのファミレスからそんなに離れてないから、そんなに驚くこともないが。


「先生、送ってくれてありがとう」


「うん、だけど本当に僕が説明しなくて大丈夫?」


「大丈夫だよ。もう慣れっこだから」


結ちゃんがそう言ってドアを開けるときだった。


ガチャっ


小雨の夜空に、森本家の玄関扉が開く音がやけに大きく響き渡った。






< 540 / 841 >

この作品をシェア

pagetop