HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
玄関から出てきたのは、森本だった。
ジーンズにカットソーと言うシンプルな格好で、メガネもかけている。
森本は玄関扉を押さえたまま、呆然とその場に突っ立っていた。
「先生―――…?お姉ちゃん……?」
僕たちを呼んで、森本はゆっくりと玄関から出てくると鉄の門扉を開けた。
「ああ、森本。こんばんは。そこで偶然会ったんだ」
僕が窓を開けながら言うと、森本は僕の方を全く見ずに
「何で!何でお姉ちゃんが先生の車に乗ってるのよ!!」
突如怒鳴り声を上げて、僕の車に走り寄ってきた。
「だから偶然会ったんだって。親切な先生が遅いから送ってくれたの」
結ちゃんはうんざりしたようなそっけない口調で言って、車から降りる。
「先生、本当にありがとう」
「……ああ、うん…」
僕が曖昧に頷くと、
「嘘!!どうせお姉ちゃんが送ってってせがんだんでしょ!!」
森本は目を吊り上げて結ちゃんに勢い込んだ。
「違うよ。遅いから送ってくって僕が言い出したんだ」
僕は興奮している森本を宥めるように言った。
森本は体内のアドレナリンの分泌量が人より多い。急に興奮して心筋を弱めるかもしれない。
僕は言葉を選ぶように慎重に説明したが、森本は僕の言葉に聞く耳を持たないかのように、その険しい視線を姉である結ちゃんに向けている。
「その席に座っていいのは先生の彼女だけなんだから!」
「何それ。誰が決めたのよ。大体この車は先生の車で、先生がいいって言えばそれでいいじゃない」
結ちゃんも負けじと言い返して、姉妹の声が夜空に響き渡った。