HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「あたしが不器用に見える?」
わざとそっけなく言って腕を振り払おうとしたが、保健医はあたしの腕を掴んだままあたしを立ち上がらせた。
その乱暴な仕草に顔を歪めて保健医を睨み上げると、
「マジであんた暴行罪で訴えてやるよ」
と威嚇してみた。
すぐ隣で久米も立ち上がり、
「離してください。鬼頭さん嫌がってるじゃないですか」と言って保健医を睨み上げながら彼の腕を掴む。
保健医はその手を乱暴に振り払いながら、久米を睨み降ろし、
「俺は水月より冷静だ。お前に襲い掛かって首を絞めるなんてバカな真似はしない。
だけど水月より陰険なんでね。どんな手を使ってもお前を退学に追い込んでやるよ」
声を低めながら、そう脅しを掛ける保健医。
水月より陰険ってのは否めない。
こいつが「退学に追い込んでやる」と言ったら本当にやりかねない。
「鬼頭。お前、嘘下手。俺らを騙すならもっとうまくやれよ」
保健医はちょっと口の端を曲げてあたしの額を軽くデコピンしてきた。
「―――は…?」
「考え事してるとき、耳を触る癖。直した方がいいんじゃね?」
保健医に指摘されてあたしは目を開いた。
気付かなかった―――……
あたしにそんな癖が……
それでもってその癖を見抜いた保健医に、驚いた。
「大丈夫だ。俺はこいつに手荒な真似はしない」
保健医がそう言って僅かにあたしの腕の力を緩めると、久米が戸惑ったようにあたしを見てきた。
「少し話そうぜ」
保健医が道路の方を顎で指し示し、あたしは諦めたように肩の力を抜いた。