HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしは久米に
「また明日、学校で」と言い置いて、警察署の前で別れることにした。
久米は心配そうにあたしたちを見ていたけど、あたしはその視線に気付かないふりをした。
保健医はすぐにタクシーを見つけると、あたしの腕を掴んだまま車に乗り込んだ。
タクシードライバーにあたしの家の住所を告げると車は走り出した。
「ってか何であたしの家?千夏さん一人でマンションに居るんでしょ?」
「その心配なら無用だ。あいつ今実家」
まるで逃げ出さないかのようにしっかりとあたしの手首を掴んだまま保健医がそっけなく答える。
「何、喧嘩でもした?早くも『実家に帰らせていただきます』ってやつ?」
わざと冗談めかして言ってやるも、
「ちげぇよ。すぐ上に越してきた住人が煩せんだ。ストレス抱えて体に悪いかと思って、しばらく帰してんの」
と保健医はまたもそっけなく返してくる。
「ふーん。そ。あんたも何か大変そうだね」
「お前ほどじゃねぇけどな」
ぎゅっと力強く握られた手首が―――…それでも痛みを覚えるほど強引じゃなかったし、むしろこいつの骨ばった指とか、あったかい体温とかが
何故か安心できた。
―――
―
あたしの家について、保健医をリビングに通すと、保健医はようやく手を離してくれた。
「悪いけど、先生を労う気持ちなんてないよ。何か飲みたかったら勝手にやって」
そう言ってやるも保健医は気にした様子もなく、
どかっとソファに腰を降ろした。
「労われるつもりもない。
俺が聞きたいことは一つだ。
何があった?」
開口一番、それも直球に聞かれて、あたしは目をまばたき口を引き結んだ。