HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



―――




「今日はお前も疲れたろ?もう寝ろ。俺はここに居るから」


保健医はそう言ってあたしを鬱陶しそうに手で払った。


「先生まさか、ここに泊まってくつもり?」


あたしが表情を歪めると、


「何だよ、昨日今日の仲じゃねぇだろ?ってか、かつては一緒にベッドで寝た仲じゃねぇか」


と意味深ににやりと笑う。


「一緒に寝たダケだよ。先生は寝言で『千夏、千夏~』って煩かった。あたし、寝れなかった」


「言ってねぇよ」


うん、ホントは言ってなかった。


いびきもかかないし寝相もいい。ついでに寝起きも悪くない。


「先生寝てた方がいい男だよ?(大人しくて)」


そう言ってやると、


「俺は起きててもいい男なの」と保健医が口を尖らせながらメガネを取り、ソファに脚を投げ出した。


保健医のムカつくほど長い脚は、三人掛けのソファに収まりきらず、脚の先が飛び出ている。


「お前こそ早く寝ろ」


「分かったよ」


あたしの家なのに何故か追い出されるように、あたしはリビングを後にしようとした。


そのときだった。




「鬼頭。一人で闘おうとするな。



俺は水月にお前の考えを黙ってるつもりだ。お前が必死に守ったものを、あっさりと敵に手放さない。



だけどお前は一人じゃない。




俺たちは





戦友だ」






ソファに横たわったままの姿勢で、保健医は目を閉じて


あたしに語りかけてきた。





< 549 / 841 >

この作品をシェア

pagetop