HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


「――――…は」


小さく声を上げて目を開けると、見慣れた天井の色が目に映った。


ここは……


そう、ここは僕の部屋だ。ここはリビングのソファの上。


どうやらうたた寝をしていたみたいだ。


「………夢?」


それにしては変な夢だ。


現実からかけ離れているのに―――目で見たもの、感じたものは妙にリアルだった。


あの声も―――……




掌を開いて見つめると、皮膚にはうっすらと汗をかいていた。


「ごめん。起こしちゃった?」


少し離れた場所で雅がエプロンで手を拭いている。


「…ああ、うん。大丈夫だけど…何か凄い音がしなかった?」


「あー、ごめん。お皿割っちゃって」と雅はその場にしゃがみこみ皿の破片らしきものを手にしていた。


「触らないで。危ないから」僕がソファから起き上がると、雅はちょっと肩を竦めた。


「大丈夫だよ。水月も過保護だね」


雅は笑っていたけれど、僕は彼女から破片を取り上げた。


割れた皿は小さな取り皿で、二年ほど前に100円均一で購入したものだ。


別にこれといった思い入れもない。


雅の白い手に視線を向けたが、怪我をしている様子ははなかった。


それでも確認のために、


「怪我は?」と聞くと、雅は「大丈夫」と再び小さく答えた。



皿の割れた側面に僕の顔がまるで鏡のようにくっきりと、しかしその表情は歪んで映り出されていた。




< 57 / 841 >

この作品をシェア

pagetop