HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「――――…は」
小さく声を上げて目を開けると、見慣れた天井の色が目に映った。
ここは……
そう、ここは僕の部屋だ。ここはリビングのソファの上。
どうやらうたた寝をしていたみたいだ。
「………夢?」
それにしては変な夢だ。
現実からかけ離れているのに―――目で見たもの、感じたものは妙にリアルだった。
あの声も―――……
掌を開いて見つめると、皮膚にはうっすらと汗をかいていた。
「ごめん。起こしちゃった?」
少し離れた場所で雅がエプロンで手を拭いている。
「…ああ、うん。大丈夫だけど…何か凄い音がしなかった?」
「あー、ごめん。お皿割っちゃって」と雅はその場にしゃがみこみ皿の破片らしきものを手にしていた。
「触らないで。危ないから」僕がソファから起き上がると、雅はちょっと肩を竦めた。
「大丈夫だよ。水月も過保護だね」
雅は笑っていたけれど、僕は彼女から破片を取り上げた。
割れた皿は小さな取り皿で、二年ほど前に100円均一で購入したものだ。
別にこれといった思い入れもない。
雅の白い手に視線を向けたが、怪我をしている様子ははなかった。
それでも確認のために、
「怪我は?」と聞くと、雅は「大丈夫」と再び小さく答えた。
皿の割れた側面に僕の顔がまるで鏡のようにくっきりと、しかしその表情は歪んで映り出されていた。