HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ふわり…どこからかひんやりとした冷気を感じて僕は顔を上げた。
ゆずが窓の方を見て突如小さく唸りだし、やがてはワンワン吠え出した。
ベランダに続く窓が開いていて、半分開いたカーテンが風ではためいている。
9月半ばとは言え、この頃は夜になると冷え込む。
「どうしたんだよ、ゆず。あんまり吠えると近所迷惑だ」僕が叱ってもゆずは歯をむき出して、窓の方をじっと睨んでいる。
僕はゆずを宥めるように抱きかかえると、ちらりと窓を見た。
窓を開けっぱなしにした覚えはないけれど、きっと雅が空気の入れ替えとかで開けたんだろう。
乾燥はよくないから、と彼女はよく言っていた。
いい加減体も冷えるし、僕はゆずを抱えたまま窓を閉めようと歩いていった。
特に何か考えていたわけではない。ただ何となくベランダに出て下を覗くと、
階下の道路に―――
久米が立っていた。
僕は思わず目を開いた。
久米は制服姿で、両手をズボンに突っ込んでこっちを見上げている。
ゆずが「ワン!」と大きく吠え、僕と久米の目が合うと彼ははっきりと分かる笑みを浮かべた。
久米―――……どうしてここに?
見間違いかと思って目をこすり、再び下を覗くと
久米の姿は
なかった。