HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
雅は風呂から上がってキャミソールに短パン姿でソファに胡坐をかいている。
胸あたりまで伸ばした黒くて艶やかな髪がわずかに湿っていた。
同じように風呂から上がった僕はTシャツにパジャマのスボン。今は並んでソファに腰掛け、僕の買ってきたドーナツを食べている最中だ。
足元ではゆずがもの欲しそうにうろうろしている。
「急に何…」僕はできるだけ平静を装ってホットコーヒーに口を付けた。
雅は忌々しそうに眉をひそめると、
「だってあいつのせいで実行委員やらされることになったし、劇だって」
ああ、やっぱり怒ってたんだ……
それでも
「実行委員はそうかもしれないけど、劇の主役を決めたのは彼じゃない」
僕は何でもないようにちょっと笑って見せた。
そう、彼じゃない―――
でもそうなるように仕向けた―――?
コーヒーの苦味をまるで感じなかった。
「……そうだけど」と雅はそれでも不服そうに唇を尖らせている。
「大体あたしが劇の主役っておかしくない?目立つこと好きじゃないのに」
君は普通にしてても目立つよ。
そう思ったけど、口には出さなかった。
僕はドーナツの箱についていた赤いリボンを取り外すと、雅の頭に乗せた。
「きれいなドレスも、華やかなステージもきっと君にすごく似合うよ。白雪姫、楽しみにしてる」
そう笑いかけると、雅は白い頬をちょっと赤く染めてまばたきをした。