HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ちょっとだけ笑顔を浮かべて上目遣いで僕を見てきたものの、雅はすぐに表情を引き締めた。
「水月―――あたしこれからしばらくここに来れない」
突然の言葉にびっくりした。
「え…どうして?」聞いておいて、それが間違った質問であることをすぐに気付く。
「だめだな、教師がこんなこと言っちゃ」慌てて言うと、
雅は特に気にした様子もなく軽く肩を竦めた。
「ちょっと家が散らかっててね」
そして声を低めると、視線を険しくさせてまっすぐに僕を見つめてくる。
「片付いたら、必ず戻る」
まるで深い闇のような瞳が、僕を捉えて―――その闇の奥底に燃えるような光が渦巻いていた。
何を考えている―――……?
“片付いたら”の単語に言葉以外の何か裏を感じるが、僕は敢えてそれに突っ込まなかった。
「きれい好きな君の家が散らかってるって想像しにくいけど、まぁ整理は必要かもな」
ちょっと微笑んで彼女の髪に手をやると、僕はゆっくりと撫で上げた。
赤いリボンが彼女の頭から滑り落ちて、僕の手首に落ちてきた。
「何かあったら何でも言って?―――どんなことでもいいから。僕に助けを求めてくれ」
そう告げると彼女はちょっと微笑んで、
「掃除機が重いから引っ張るの手伝って?とか?」
と明るく言った。
僕はそれに何も答えずに彼女を引き寄せた。