HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
■Mirror.5
■Mirror.5
◇◇◇◇◇◇◇◇
―――
――
油絵の具の独特な匂いが部屋に充満していた。
中学の美術室で、あたしは名前も知らない男子生徒と一緒にいた。
名前を……そうね、名無しじゃ可哀想だから“美術バカ”にでもしておこうかな。
そのとき知ったけど、実は同じクラスだったらしい。
あたしは他人に興味がなかったし、クラスメイトの顔もろくに覚えていなかった。
って言うか覚える気がなかったって言った方が正しいのか。
だってみんな同じ制服着て、同じような髪型してるんだもん。見分けつかないよ。
―――彼の前には大きなキャンバスがイーゼルに立てかけられていた。
白いキャンバスに炭で家か何かの背景が描いてある。
家っぽく見えるんだけど…描きかけだったし、よく覚えていない。
あたしは彼の後ろで机の上に腰掛け、彼の絵を描く姿をぼんやりと見つめていた。
彼の右手はすらすらと良く動く。
まるで目の前にその風景が見えているかのように。
「うまいね。どれぐらい描いてるの?」
聞いてみると、美術バカはちょっと振り返って恥ずかしそうにはにかんだ。
「ありがとう。絵はほぼ毎日描いてるよ」
「飽きないの?」
「飽きることはないよ。絵はボクにとって全てで、ボクの魂の一部なんだ」
哲学的…って言うか、この場合ロマンチックって言うべきかな。
でもあたしは彼の言葉を素敵だとも思わなかったし、当時のあたしはそこまで夢中になれるものがなかったから、理解もできなかったし逆にサムかった。
ちょっと肩をすくめて見せて、
「かっこいいね」なんて茶化した覚えがある。