HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
次の授業がはじまる前の休み時間―――
「先生、ちょっと分からないとこあるんスけど」
意外な人物が職員室に尋ねてきて、僕は思わず目を開いた。
梶田―――……
「どうした?珍しいな」
梶田は数学の教科書を持って居心地悪そうに表情を歪めている。
「いや、分かんないとこあって質問」
そう言って梶田は教科書を開いて、僕はそのページを覗き込んだ。
梶田はページの隅を指でトントンと指差す。
「ここなんだけど」
開いた教科書の隅に、梶田が指差した先に
“話したいことがある。鬼頭のことで”
と言うメモが書いてあって、僕はまた目を開いた。
ちらり、と立ったままの梶田を見上げると、梶田は真剣な顔で一つ頷いた。
僕はそのページにペンを走らせて
「この数式は…」
と教えるフリをしながら
“いいよ。準備室で話そう”と書いた。
すると梶田は「分かりました。ありがとーございます」と棒読みで返事をして
教科書を閉じると職員室を出て行った。
「あれ…?梶田が質問ですか?
めっずらしー。明日は雨かも」
と近くを通りかかった和田先生が珍種を見るような目つきで目をぱちぱち。
「天気予報では晴れになってますよ。梶田は晴れ男だから大丈夫です。僕は雨男だけど」
僕は軽口で和田先生に返事をして、席を立つと
「あれ?もう授業に向かうんですか?」とまたも和田先生が聞いてくる。
「いえ、ちょっと購買に寄っていこうかと」
僕の言い訳も和田先生はさほど気にした様子でもなく
「そうですか、今の時間帯混みますからね」と笑って自分の席へ着く。
大人しく席に着いていてくれるかと思いきや、
「あ、そうそう。裏情報ですがね、文化祭のチケットが購買で高く取り引きされてるとか。
ほら2-AとDの争いで本来タダの券が足りてない状況なんですって。
ダフ屋がいるみたいですよ?」
と、話を振って来る。
文化祭のチケットを高値で取り引きするなんて…悪いことを考えるヤツも居るものだ。と思いつつも、とりあえずはそれよりも梶田の話だ。
僕が適当に相槌を打っていると
「タケル~この漢字ってなぁに?」とシャーロット先生が和田先生に話しかけていて、和田先生の意識が逸れた。
僕はその隙に職員室を出ると、準備室に向かった。