HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
だけど彼はあたしの言葉を嫌味に取ったわけでもなく、素直に喜んでちょっと笑った。
「他に取り得もないし。夢中になれるものもないから」
確かに、これぐらいの年頃の男子ってサッカーや野球に夢中になって、ゲームや女の子のことで盛り上がっている。
ガキっぽいって思ってたけど、女子だってお洒落や好きな男の子の恋バナで盛り上がったりするもんね。
似たようなもんか。
ま、あたしにはお洒落にも男子にも興味がなかったけど。
だからかな。
こんな風に夢中になれるものがあって―――ちょっと羨ましかったりする。
―――………
美術バカとの会話は結構楽しかった。
あいつは大抵好きな絵の話をあたしに一生懸命聞かせたけど、あたしはその殆どが理解できなかった。
例えば、
「印象派のドガは最高だよ。あの“踊り子たち”を見ていると、いつも制作意欲を掻き立てられる」とか
「シュールレアリスムだったら、マグリットが好きだな。“光の帝国”の本物を見たときは鳥肌がたった」
とか、あたしには分からないマニアックな話ばっかり。
彼はそうゆう話をするときキラキラと顔を輝かせて一生懸命あたしに聞かせるけど、話し終わった後できまって
「ごめん、こんな話つまんないよね」と言って項垂れていた。
「うん、よく分かんないや」素直にそう返して、それでもそいつが持ってきてくれた画集なんかを見ると、美術が分かんないあたしでもそれなりに楽しめた。