HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



顔を洗い幾分かすっきりしてタオルで拭いていると、視線を感じた。


水月―――…?


目を上げると鏡に自分の姿が映った。水月の姿は映っていない。


気のせい―――…訝しく思って鏡を見つめると、


一瞬ギクリとして一歩後退した。鏡の中には自分しか映っていない。


何自分の顔にびっくりしてんだよ…


そう苦笑いしながらも、ぼんやりと鏡の中を見つめる。


鏡の中のあたしは少しだけ顔を青くして、それでもあたしと同じ動きをする。


当たり前か。だって鏡だもん。


そんな風に思って洗面所を後にしようと後ろを振り返った。


だけど何か気になって―――もう一度鏡の方を振り向くと、




「!!」




鏡の中の“あたし”が両手を見えない壁について、こっちを見ていた。


約17年間付き合ってきた馴染みのある顔は、見知った微笑を浮かべこちらを見つめていた。





声にならない声を上げて一歩後ずさると、





『あんたは大切なことを―――忘れている。早く思い出さないと




手遅れになる』





鏡の中のあたしは薄く笑いながら言った。


恐怖が足元から這い上がってきて、あたしの体は強張った。


逃げ出したいのに、足は床に吸い付いて動けない。



ドンっ!




ふいに後ろで何かとぶつかり、まるで金縛りが解けたようにあたしは、はっとなった。






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