HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
□Chairs.18
□Chairs.18
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結ちゃんがコンタクトを僕の車のシートに落として、それに気付かず彼女は走り去ってしまった。
すぐに森本家に行ってコンタクトを届ける、と言うことも考えたがこれと言った口実が浮かんでこない。
生徒でない結ちゃんのコンタクトを何故僕が持っていたのか、母親だって不審に思うはずだ。
「そうだ…電話……もう一度出てきてもらおう」
そう思い直して、ケータイに手を伸ばして結ちゃんに掛けるが、コール音だけが虚しく響き、彼女が僕の電話に出る気配はなかった。
仕方なく、
“コンタクト見つかったよ。また連絡欲しいです”
と、だけメールして、その場を離れた。
―――
しかし、このコンタクトどうすればいいのだろう。
家に帰って、無くさないよう取り合えず小さな食器の中に置いた。
僕が何かを食べようとしていると思ったのか、飼い犬のゆずが物欲しそうな顔で僕の足元をうろうろ。
「これは食べ物じゃないんだよ」
僕がゆずに説明しても、ゆずは諦める様子がない様子。
こんなときだけ僕の近くにきて。普段は呼んでも来ないことだってあるのに。
しかも目一杯シッポをふりふり。大きな目で僕に訴えかけてくる。
『何かちょーだい♪』
小悪魔だな。
だけどその小悪魔な素振りに負けてしまう僕。僕は動物病院で買っているおやつを一粒取ると、
ゆずは嬉しそうにくるくる。
ゆずにおやつをあげて僕は再び小皿の中のコンタクトとにらめっこ。
「このまま放置じゃマズいよな。そだ。
まこに聞いてみよう。時々コンタクトのときがあるし」
そう思い立ってケータイに手を伸ばす。
しょっちゅう電話やメールをしている仲だから、何も考えずにメモリを呼び出すと、通話ボタンを押した。
TRRRR…
『………――――はい…』
たっぷり間があって電話に出たのは、まこではなく
雅だった。