HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


「大丈夫か?気分悪そうだけど…」


とあたしの背後で聞き慣れた声がして、恐る恐る鏡に視線をやると顔を青くさせたあたしの後ろに水月が心配そうに立っていた。


寝起きだろうか、彼の毛先は少しだけ寝癖がついて跳ね上がっていた。


「水月―――」


「大丈夫?また貧血?」水月はあたしの両肩に手を置いて、鏡越しにあたしを心配そうに見てくる。


あたしは鏡を見ながら、やっぱり普通通りのあたしの姿にほっとして、


「何でもない。ちょっと疲れてるのかも」


曖昧に笑ってそう返し、あたしは水月に向き直った。




本当に、疲れてるだけだ―――……




でも幻覚を見るなんてあたし相当ヤバい。




でも


果たしてあれは幻覚だったのだろうか。


あたしは何か重大なことを忘れてる。


それは最初から存在しなかったように、記憶からすっぽりと―――抜け落ちてる。




中学のあの“美術バカ”


あいつが良い例だ。


あたしはあいつの顔はおろか、名前すら思い出せない。


2年、長くて3年前のことなのに―――





どうしてだろう。







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