HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米たちがゲームを繰り広げている間、ちらりと女子コートの方に視線をやると、ボールを持った森本とばっちり視線が合ってしまった。
森本は、訝しそうにはしていなかったが、ちょっとだけ疑うような目つきで僕を見ると、ゲーム中の雅に視線を移した。
僕は何でもない振りをしてドアに隠れるように身を後退させると、森本もそれ以上はこちらに顔を向けてこなかったので、僕も再び久米の方へ視線をやった。
それからどれぐらい眺めていただろう。
「神代先生!」
声を荒げて、肩で息をしながらただ事ではない様子の和田先生が駆け込んできた。
「不審者が出たようです。学校の周りをうろうろしてて…。その男が学校に入ろうとしていたので、今生活指導の先生方が追いかけてる最中なんです」
和田先生ははぁはぁと堰切って言った。
「とにかく、今手が開いてる先生が少ないので、少しの間見回り手伝ってもらっていいですか?」
「え、ええ。それはもちろん」
僕はちらりと久米の方を見ると、和田先生に促されて正面玄関まで向かった。
「若い男ですよ。二十歳前後の…二、三日前もうろうろしてたみたいで、そのときは特に気に掛けていなかったのですが、良く聞くと女子高生をじっと見つめていたとか…」
「女生徒を?」
その言葉を聞いて僕の心情がちょっとだけ荒波立った。
その不審者とやらは、単に女子高生を眺めていたかもしれない。
可愛い子が居たら声を掛けよう。
お茶に誘ってみよう。
そんなつもりだったのかもしれない。
だけどそれは単なる想像でしかなく、僕の頭の中にはっきりと雅の姿が映し出されていた。