HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
何故、その不審者が雅のことを見に来たのかと、言い切れる?
雅が狙われてると何故言い切れる―――……?
何故?
幾らなんでも恋人だからって心配し過ぎだ。
安易に彼女と結びつけるにはあまりにも極論過ぎる。
だけど僕の中に芽生えた不安という芽は、僕の知らない間にやがて大きく…大きく育っていく。
今はまだそのことに僕は気付いていない―――
―――
――
6時限目の授業が終わるまで、僕は和田先生と学校の周りを見回りした。
この学校周辺は閑静な住宅街だ。
南に歩いていくとすぐに大通りになるが、裏門側は完全に人けが途絶える。
不審者は生活指導の先生の追跡を振り切って、逃げていったらしい。
これと言った特徴もなく、“若い男”と言うキーワードしか得られなかった。
裏門の近くを歩いて、壁に手をつき
ここで悲鳴を挙げても、果たしてその声は届くのか…なんて考える。
雅には正門から帰らせよう。
その日僕は帰りのホームルームで不審者が出た旨を生徒たちに伝えた。
生徒たちは一様に不安の色を滲ませていたが、すぐにその暗い雰囲気はなくなった。
誰もが「どうせ痴漢だろう」ぐらいに思っているのかもしれない。
痴漢でも充分悪いし、危険には変わりない。
ちらりと雅の方を伺うと、彼女は相変わらずの無表情を浮かべていた。