HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


演劇部は体育館脇にある、小さな球技室を部室に使用している。


たくさんの運動部の部室が連なる通路を歩くと、突き当たりに演劇部員たちが利用している部室になる。


ノックしたが返事はない。中から声も聞こえない。


思い切って扉を開けようとしたが、扉は開かなかった。


「神代先生?演劇部にご用ですか?今日は…って言うか一週間前から演劇部は活動休止ですよ」


と部室の鍵を持った女生徒が首をかしげている。


「君は演劇部員?一週間前から活動休止って…」


「演劇部員です。今日は忘れ物を取りに来ただけで。活動休止って言っても、文化祭があるから部員が集まらなくて。公演予定もなかったし、丁度いい機会かな、って。まぁ本格的に活動してるわけじゃないですしね」


「じゃぁ久米も来ないんだな」なんて漏らすと、


「久米くん?ああ、先生久米くんのクラスの担任だもんね。久米くんがどうしたんですか?」


「いや、問題があるわけではないよ。ただ、転校してきたばっかりだし色々気になってね。彼は楽しそう?あの姿じゃさぞ舞台晴れするだろうね」


何でもないように言った。教師が担当している生徒の一人を気にかけるような素振りで。


案の定その女生徒はあまり気にした様子はなく、


「久米くんは俳優じゃなくて、裏方専門ですよ。主に大道具、小道具係かな。うち人数少なくて、その辺兼任してもらってるんです」


なんて恥ずかしそうに笑う。


裏方?大道具、小道具……


何か意外だった。あの華やかな見た目だから、絶対主役を演じる俳優かと思いきや。




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