HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
車に向かうと、予備の(何かあったとき用に入れてある)ネクタイを取り出す。
さすがに久米の実家に行って、彼の父親に会うのにノーネクタイじゃまずいだろう。
シュルッ…
襟にネクタイを通す音が耳の奥まで響いて、僕は顔を歪めた。
いつ締めても気持ちのいいものじゃない。
まこ、なんて多少緩まっているもののネクタイを毎日欠かさず着用している。
感心するよ…
なんて思っていると、校舎の通路を森本が横切る姿が見えた。
森本…?帰ったんじゃ……
不思議に思って、僕は彼女に声を掛けていた。
「森本」
森本は僕の声に気付くと目を開いて立ち止まり、そしてペコリと頭を下げてきた。
「まだ帰ってなかったのか?君は部活動に入ってなかったよね」
僕がネクタイを首に巻きつけたまま近づくと、彼女はちょっとびっくりしたように目を開いた。
「あたしが部活に入ってないこと知ってるんですか?」
「そりゃ生徒だし。って言っても他のクラスの子はあんまり知らないけど。僕のクラスの子達は一応頭に入ってるつもり」
と、僕は笑った。
森本はちょっと恥ずかしそうに俯くと、
「図書館寄ってたんです。本を借りようとして選んでたら遅くなっちゃって」
と慌てて言った。
「もう6時近くだよ。不審者が出たって言ったし、危ないから早く帰りなさい」と僕は言って、森本も素直に頭を下げた。