HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
そのまま立ち去ろうとする森本の姿を目で追ってちょっと考えると、僕は再び彼女の後ろ姿に声を掛けた。
「森本。もう遅いから今日は送っていくよ。危ないから」
その呼びかけに、森本の足がぴたりと止まった。
「…………え?」
顔には驚きのような、戸惑いのような複雑な表情を浮かべている。
「ああ…いや!変なつもりじゃなくて。ただ、今日はまだ例の変質者がこの辺をうろついてるかもしれないから。僕も行くところがあるからついでで悪いんだけど」と僕は慌てて手を振った。
森本は胸に抱いた本をぎゅっと抱きしめて、
「ホントに!ホントにいいんですか!」と聞いてきた。
「え…うん。もちろん」
その勢いに逆に僕の方がびっくりしてしまった。目をまばたいて頷くと、森本は力が抜けたようにちょっと笑った。
「……じゃぁお願いします…」
はにかみながら言って、森本はこっちへ回りこんできた。
僕は助手席のドアを開けて中を覗きこんだ。
「散らかってるけど…」
ゆずのお散歩のときに遊ぶボールやらおもちゃを入れたバスケットが転がっていて、僕はそれを後部座席に移動させた。
花のコサージュがついたバスケットは雅の家にあったものを彼女が持ってきてくれた。
見るからに女の子が好きそうなものを見て、森本はちょっとだけまばたきをした。
僕は曖昧に笑って、
「知人のものだよ。ちょっと借りてるだけ」と言ってバスケットを押しやった。
「知人……彼女の…ですか……?」
森本の視線は探るように上下し、言葉はか細く震えていた。
この質問に対して僕は何て答えるべきか悩んだ。
でも
「そうだけど……」
結局素直に答えることした。