HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
森本はちょっと虚を付かれた様に息を呑み、やがて大きく深呼吸をした。
違うよ、って言う嘘を付く理由がなかったし、隠すことでもない。
それでも森本は何かに躊躇したように、ドアの前でちょっとだけ足踏みをしている。
僕は座席に置いてあった雅のひざ掛けを手にした。
冬は寒さ対策に、夏は日焼け対策のために彼女が膝に掛けているものだ。
持ち上げると、ふわりと彼女の香りが香った。
つい朝まで一緒に居たってのに、その香りが妙に懐かしい。
「どうぞ?」僕が促すと、森本は心配そうに顔を上げて、
「彼女さんに悪い気がする…」
と、眉を寄せた。
「君は生徒だし大丈夫だよ。特にこうゆう状況だしね。ちゃんと説明すれば分かってくれる」
…と思う。
僕は雅が誰かに妬きもちを焼いている姿を見たことがない。
たまに、まこに突っかかってはいるけれど、あれはじゃれあっている部類に入る…と思う。逆に僕の方が妬きもちを焼いているほどだ。
「とりあえず入りなさい。あんまり遅くなるとご両親も心配するだろうしね」
僕が促すと、森本は
「心配なんてしないよ」と俯いてぽつりと呟き、それでも素直に助手席に座った。
「心配しないって?」
僕も運転席に座ってネクタイを結びながら、森本をちらりと見た。
森本は俯いたまま、
「お母さんはあたしじゃなくて、あたしの成績しか興味がないんだもん」
と零し、益々顔を俯かせた。