森の中の
帰ってきた
小さな頃の記憶には、いつも同じ少年の姿がある。
くっきりした二重まぶたと
笑った時に覗く八重歯。
少しうねりのある真っ黒な髪をなびかせ、
あたしのずっと前を振り返ることもなく、
歩いている。
道端に咲いていたピンク色の可愛い花に見惚れ、
しばらくうずくまっていると、
その背中はずいぶん小さくなってしまった。
足の遅いあたしは、転びそうになりながら、
どんどん遠ざかるその背中を必死に追う。
待って、待って、
置いてかないで、
追いかけていた背中は、いつの間にか大きな広い、大人の男の人の背中になっていた。
「っ…おにいちゃんっ‼」