森の中の





ヨウ兄と並んで、床に腰を下ろす。

あたしの右手は、ずっと繋がれたまま。
ドキドキと、あたしの心臓は忙しなく動いてる。
でも、そんな事考えてるのは、あたしだけなんだな…
ヨウ兄の涼しげな横顔を見て、こっそりため息をつく。




「しかし、お前なんで森の中なんか入ったんだよ。
自分が方向音痴なの、忘れたのか?
ミユキもめちゃくちゃ心配してたぞ。
俺が探しに行くって言ったら、自分も行くって聞かなくて。
とにかく荷物もあるし、待たせたけど。」


あ…ミユキさん…。
今の今まで、すっかり忘れてた。
あたしのこと、心配してくれてたのに。ほんと、サイテーだなあ、あたし。


「そっか、ほんとにごめんなさい。
うさぎを…ちょっと追いかけてて。
ミユキさん、大丈夫なの? 雨もひどいのに…」


遭難の理由がうさぎだなんて、恥ずかしすぎる。



「うさぎ??」

はあ~っと隣から盛大なため息が聞こえてきそうな声だった。



「うさぎね…。 まあ、お前らしいよ。
ミユキなら大丈夫。車のカギ渡してあるから中で待てるし、いざとなったらあいつも免許持ってるから、乗って帰りもできる。」



「そう、
あの、ほんとにごめんなさい。」


「ん、もういいよ。
無事だったんだから…」


「ありがとう、きてくれて…。」


そう囁いたあたしの声は雷の音にかき消された。



降りた沈黙に、あたしはどうしようかとアタフタしたけど、なんにも言う事がなくて、黙っていたよ。



そんな沈黙を破ったのは、ヨウ兄だった。




「俺さ、あいつと… ミユキと。
大学卒業したら結婚するつもりなんだ。」







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