森の中の
小さな頃の記憶には、いつも同じ少年の姿がある。
くっきりした二重まぶたと
笑った時に覗く八重歯。
少しうねりのある真っ黒な髪をなびかせ、
あたしのずっと前を振り返ることもなく、
歩いている。
道端に咲いていたピンク色の可愛い花に見惚れ、
しばらくうずくまっていると、
その背中はずいぶん小さくなってしまった。
足の遅いあたしは、転びそうになりながら
どんどん遠ざかる背中を必死に追う。
待って、待って、
置いてかないで、
「あっ‼」
ズザザッ
「あーん、痛いよう~~」
「大丈夫かっ!?
ったく、しょうがねえなあ~。ほらっ!」
「うんっ!」
差し出された左手を握り、少し後ろを歩き出す。
「おにいちゃん、だーいすき!」
END