森の中の
小さい時から、ヨウ兄はヒーローだった。
得意な科目は算数。
手先が器用だから、なんでもできちゃう。
運動会のリレーでは、必ずアンカー。
どんなに前と差があっても、なんでもないように、
あっさりと抜かして1番でゴールするヨウ兄。
すげーなー‼ とか、
アヤちゃんのお兄ちゃんかっこいいね~‼ とか、
あたしの事じゃないのに、嬉しくて、
もじもじしながら、うん、すごいでしょ。 って
みんなに応えたのおぼえてるよ。
そっけない性格だったのに、
いつだってヨウ兄の周りには人が集まるんだ。
小学校の理科の時間だったか、
引力って言葉を習ったとき、すぐにヨウ兄を思い出した。
そっか、ヨウ兄が持ってるのは、
引力なんだ。
みんなを惹きつけて、離さない。
ヨウ兄が地球なら、あたしは月だと思った。
ヨウ兄の周りを、ぐるぐる、ぐるぐる。
これ以上近づくことも、離れることもできず、
ぐるぐる、ぐるぐる。
ただ、回るんだ。
中学校に上がって、
ヨウ兄の顔からは
あどけなさが消え、元々綺麗な顔立ちが、
さらにクリアになった。
アヤちゃんのお兄ちゃんかっこいいね~‼
って、言葉に含まれる意味が
変わっていったのも、よく分かったよ。
仲のいいヨウ兄の友達が、
なんでみんなこんな無愛想な奴がいいんだよ って、
ぶーたれてた。