君のためにできること
なつきは、履いていたビーチサンダルを脱ぎ、足を海に入れた。


「気持ちいい!優もおいでよ!」


「ちょっと待ってくれ」


俺は携帯電話を取り出して、メールを見ていた。


「もう、つまんない。なつみからのメール見せてよ」


「だめだよ!消えてしまうから、絶対だめだ」


「つまんない!」


なつきは面白くなさそうに、水を蹴った。


うるさくて集中できない。しかたなく、携帯電話をポケットに入れた。


「優の頭の中は、なつみでいっぱいだね」


なつきが寂しそうに呟いた。


「なつみが忘れられないのはわかるよ。でも、もうなつみはいないんだよ」


俺は何も言えず、海に視線を向けた。


胸の奥がひどくしめつけられる。


なつきは黙っていた。


また、水の蹴る音がしたので俺は視線をなつきに向けた。


「お、おい。な・・・つき?」


俺の腕の中に、なつきが飛び込んで来た。肩を抱き、押さえた。


「なつき・・・・・・」


「なつみが羨ましいな」


なつきの瞳は水平線に向けられていた。


「本当に、私、優のこと好きだよ」


いつしか、波の音に混じり、なつきの泣き声が聞こえてくる。


また、なつきを傷つけてしまった。


ただ、俺は、ずっとなつきの細い肩を抱いていた。


そんなことぐらいしか、してやれなかった。


どのくらい、時間は経ち、どのくらい、なつきは俺の腕の中で涙を流したのだろうか。


「なつき、俺・・・」


「言わないで。今だけはこうしていて」


俺は何も言わず、泣き続けるなつきを、そっと抱きしめていた。

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